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由煕/ナビ・タリョン

『由煕/ナビ・タリョン』(李良枝(イ・ヤンジ)著 講談社文芸文庫)を読みました。

在日文学の名作という評判は聞いていたが、「由煕」、予想以上に面白い小説でした。面白いという表現を使ってはいけない歴史的背景があるけど小説として面白い。(「日本人に殺される―そんな幻覚がはじまったのはあの日からだった」「ナビ・タリョン」p50)

「あにこぜ」という小説のなかにこんな言葉が出てきます。

「おねえさんがよくいう、民族意識も主体性も、男と女が結婚したり、子供を生んだりして<生活>を続けるその営みがあるからこそ、問題になってくるのだろうけど、人と人とが結ばれて満足する状態なんてありうるんだろうか」(p193)

彼女の小説のテーマはこの「わかりあえなさ」だと思う。「ナビ・タリョン」や「あにこぜ」では人と人とは分かり合えない存在かもしれないということが、読み手にこれでもかというくらい私的に痛々しく呈示されるのだけれど、「由煕」では、日本語とハングルとの言葉の違いにまで踏み込んで、一つの物語として深められている。

小説としての出来が他に比べて格段にいいんですよね、「由煕」は。でもうまく批評できないな〜。