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(月3回以上更新目標)

亀も空を飛ぶ

昨日、今日と金沢へいってきました。金沢コミュニティ映画祭を見るためです。
道中記は後日として。。。

「亀は空を飛ぶ」(バフマン・ゴバディ監督 2004年)はすごいです!たぶんあまり知られていないと思うので、少し長く書きます。

イラク戦争前後のクルディスタンのある村に、「サテライト」と呼ばれる子供たちのリーダーがいる。彼はアンテナをつけるのが得意なのでサテライトと呼ばれているのだ。アメリカの衛星ニュース映像を見せようとするアメリカかぶれの少年でもある。しかしそのニュースは英語ゆえ、村の人は誰もわからない。その村に、ヘンゴウという、難民の子供がやってくる。アグリンという妹とその子供をつれて。ヘンゴウは物事を予知する能力がある。アメリカ軍のイラク侵攻をヘンゴウは予知し村を驚かせる。一方、アグリンの子供は目が見えない。しかもその子はサダム・フセインの軍隊によって暴行を受けた結果にできた子供である。アグリンはこの子に愛憎なかば混じりあう感情を持ち、将来に絶望的な感情を持っている。

そしてサテライトはアグリンに恋をしている。

話が進み、ヘンゴウは「すべては明日で変わってしまう」と予言する。その数時間後アメリカ軍が村を解放する。しかしその夜、ヘンゴウは、アグリンとその子供が水のなかに沈む夢を見る。アグリンは沼へ投身自殺したのだ、子供とともに。アグリンを探しにいったヘンゴウとサテライトは、沼からびしょぬれになりながら村へ帰ってくる。そのとなりを「希望に満ちた時代がはじまる」とスピーカーで告げるアメリカ軍の戦車がとおりすぎる。

この映画の勝利はヘンゴウの「予知能力」という装置にあると思います。この「予知」は「見えないニュース」という隠喩と対比されて使われています。アメリカのニュースは、文字どおりわからない、クルディスタンの人々には届きません。しかも、そのニュースは平板で、誤りに見ちており、なにより人間の愛や憎しみに届かないのです。それに対して、予知は、非合理的な人間の深みに届きます。パンフレットにもあるように、リアルな非合理性、「マジック・リアリズム」なのです。しかしヘンゴウの予知は常に悲惨な予知となります。クルディスタンの苦しみは、アメリカ軍によっては、絶対に癒すことができないかのように。

大阪でもやるようです、ぜひ!