Random-Access Memory

(月3回以上更新目標)

誘拐

『誘拐』(本田靖春著 ちくま文庫)
を読みました。

「吉展ちゃん事件」についてのノンフィクション作品です。一気に読んでしまいました。ディテールが細かく、もう一度読まないとわからない点も多くあったが、それでも勢い、次へ次へと視線が向く名著です。加害者・被害者・警察・それを取り巻く社会、四者にわたって丹念に調べられ、事件を「全体」として理解しようとしています。その姿勢は作者の次のような言葉によってもわかります。

その1つの表れが、犯人逮捕を伝える際の見出しに用いられる「解決」の文字である。なるほど、犯人が挙がれば、捜査本部は1件落着とばかり祝杯をあげて解散する。しかしそれは社会全体に通じる解決を意味しない。
私は十六年間の新聞社勤めの大半を社会部記者として過ごしてきた。そしてその歳月は、犯罪の二文字で片付けられる多くが、社会の暗部に根ざした病理現象であり、犯罪者というのは、しばしば社会的弱者と同義であることを私に教えた。
もとより新聞は「法と秩序」を否定するものではないが、記者に与えられた役割りは、捜査員の職務とはおのずから別物である。
(p351)