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新しい労働社会

『新しい労働社会』を読みました。

この本の著者である濱口さんのブログは愛読して、そこからずいぶんと多くを学んでいます。(RSSリーダーに登録済み)

特に人文系の分野しか学んでこなかった私にとっては、労働法制や、労働をめぐる諸問題について、無知で、ブログ記事を読むなかで、こういう風に考えればよいのかと、発見することが多いのです。(すべての記事を確認はできないのですが)この『新しい労働社会』に書かれている話は、突飛な話ではないかと思います。普段、ニュースで耳にする労働問題が、筋道だてて整理されていき、今の日本のあり方とは少し違うあり方が見えてくる本となっているかと思います。

と言ってばかりではつまらないですので、以下、著書の範囲を超えている部分もありますが、感想を書いていきます。

- 感想1
第3章でシングルマザーのことが記載されています。下記の事実についてはじめて知りました。

日本のシングルマザーの就業率は80%以上と世界的に見て驚異的に高く、さらに日本では就労しているシングルマザーの方が生活保護を受給しているシングルマザーよりも貧しいのです。(p.155)

このエピソードが紹介された後、この仕組みでは、働くことが得にならずモラルハザードが生じる、そこで生活保障制度の中に、働く意欲を喚起するような仕組みをビルトインしつつ、生活保障制度を柔軟化していかねばならないと著者の論が続いているかと思います。

上の状況を聞いて率直に思ったのは、「なぜ彼女たちは生活保護を選択しないのか、それとも選択できないのか」ということです。生活保護の申請がおりないのでしょうか?アクティベーション的な政策の導入以前に"福祉へのアクセス可能性"をもっと確保せねばならないのではと感じました。

- 感想2
ブログのなかでも数多く言及されていた教育の職業的レリバレンス論ですが、私も重要な論点だと考えています。私はもともと人文系なので、この話は、「リベラルアーツ 対 職業教育」の図式で考えられるのかなと予測していましたが、その予測は見事に外れました。

筆者は下記のように書いています。

「大学は、『学術の理論(…)文化の発展に寄与する』という建前と、現実の就職先で求められる職業能力とのギャップをどう埋めるのかという課題に直面しています。」(p.144)

つまり大学のなかの"研究"と"教育"の齟齬が労働社会の構造変化に伴い、表面に出てきたというのが現状なのではないでしょうか。研究はすべて「建前」というわけではありませんが、「無用の長」としての性格を多分に有しており、職業的レリバレンスとは異なる位相にあるかと思います。

大学教育のコストを公的に負担する代わりに、大学で職業的レリバレンスの高い教育を行うという選択肢は、おそらく多くの方が納得する正当性の高い選択肢かと思います。では"研究"を公的に保障する仕組みはいかにあるべきか、これはすぐには答えられない難しい問題かと思いました。

念のために申し添えておくと、問題は(非常に)多いにせよ、大学の研究空間は重要だと考えています。しかし社会の文脈のなかで、大学での"研究"という営みを捉える時期が来ているのかもしれないと感じたのです。(事業仕分けを見た際もそう感じました。)