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映画「悪人」

素晴らしいです。本当に素晴らしかった!

タイトルが「悪人」となっていますが、この映画がテーマとしているのは個人に帰属される「善悪」ではなく、社会の「構造的暴力」ともいえるものです。都市と地方の格差、大学生と肉体労働者の格差など、圧倒的な社会の流れに流されつつも、必死に抗しようとする登場人物の姿が、かなり考えて作られた映像にのって描かれます。
最も映画的だと感じたのは、登場人物の社会的環境を、食べ物のシーンで表現するところです。満島ひかり演じるOLは居酒屋の餃子(これが物語の一つの伏線になる)を食べ、宮崎美子演じるOLの母親は(おそらくスーパーなどで購入した)エビのはらわたを取り、主人公(殺人者)の母親役の樹木希林は(おそらく近くで取れた)魚を卸し(魚の眼が回想を誘い出す)、主人公の恋人である深津絵里は(スーパーなどの)安物のケーキを手づかみで食べる。このシーンを入れるだけで、彼らが異なる社会的環境にいることが一目でわかります。予告篇に「それでも人は立ち上がる」というテロップが入っているものがありました。本当にそうです。絶望のなか「それでも人は立ち上がる」映画となっています。