ナチスドイツと障害者「安楽死」計画

ノンフィクションマラソン18冊目は「ナチスドイツと障害者『安楽死』計画」です。重い、しかし大事なテーマです。

【新装版】ナチスドイツと障害者「安楽死」計画

【新装版】ナチスドイツと障害者「安楽死」計画

 

ハンス・ペーターは興奮してきた。「現代は安楽死や遺伝子カウンセリングの話ばかりだ。知的障害の人間を世話するのはどれだけ金がかかるとか、サービスはそれを最も有効に利用できる人間に優先的に回すとか。生命の質や経済学の話。」
「俺たち障害者は言ってやったよ。『ちょっと待てよ。あんたたちが話しているのは、私たちのことなんだよ』って」(p.327)

原題は「裏切られた信頼によって;第三帝国における患者、医者そして殺害の資格」(By Trust Betrayed: Patients, Physicians, and the License to Kill in the Third Reich)
です。ナチス支配下で障害を持った方の組織的大量殺戮が行われました。悪名高きT4作戦です。この本では、T4作戦の概要、T4作戦に対する医者、法曹関係者、教会関係者の態度が、自身障害を持つ筆者によって、自国アメリカの事情にも触れつつ、わかりやすく書かれています。

T4作戦 - Wikipedia

医者には「ヒポクラテスの誓い」というものがあるとのことです。

医の倫理の基礎知識|医師のみなさまへ|医師のみなさまへ|公益社団法人日本医師会

患者に対し害をなさずベストの診療を施すという医者の誓いの下、患者は医者を信頼し治療を受けます。ナチス期、多くのドイツの医者は、積極的とは言えないまでも、大した抵抗をせずT4作戦に関係します。患者からの信頼を医者は「裏切った」わけです。何故、そうなってしまったのかを、思想的観点(優生学)、経済的観点、そして、医者と患者とのコミュニケーションの観点から筆者は問います。

また、このT4作戦に反対した人々がいたことも、本書では紹介されています。特に抵抗が強かったのが教会関係者です。反対の論陣を張ったフォン・ガーレン司教の説教の中に「汝殺すなかれ」という聖書の一節が出てきてはっとしました。狂気に満ちた社会の中で正気を保つ効用を、潜在的に宗教が持つのかもしれないなと感じた次第です。