目に見えない世界を歩く

ノンフィクションマラソン33冊目は『目に見えない世界を歩く』です。

新書862目に見えない世界を歩く (平凡社新書)
 

近代以降、人類は「目に見える」世界を拡張するのが進歩なのだと信じてきました。(中略)「目に見えない」世界の入口へと僕を案内してくれたのは、研究で出会った琵琶法師・瞽女など、盲目の宗教・芸能者です。そして、博物館でユニバーサルな(誰もが楽しめる)「さわる展示」を企画・展示する経験を通じて、僕は「目に見えない」ものの意義を実感しました。(p.44)

昔、この著者が書いた岩波ジュニア新書を読んでとても面白かったので、この新書も読んでみることにしました。

さわっておどろく!――点字・点図がひらく世界 (岩波ジュニア新書)

さわっておどろく!――点字・点図がひらく世界 (岩波ジュニア新書)

 

 『目に見えない世界を歩く』は、「全盲」となった筆者が自身の半生を振り返りながら、彼自身の現在の考えをまとめた本です。この本では、第1章の「目が見えない人は、目に見えない世界を知っている」というタイトルのとおり、視覚が重視されがちな現代社会の中での「触覚」や「聴覚」の重要性が説かれています。さらに、著者は、勤務する博物館(民博)で、展示のあり方を変えようとします。展示は、モノを「見せる」ことが一般的だと思うのですが、モノに「触れる」機会を提供するのです。本書では、資料保存との両立や、入館者の触れるマナーについても触れられていて、公共機関での展示に(少しだけとはいえ)興味がある私は興味深くその点を読みました

そして、私はこの本の「映画のバリアフリー上映会」の箇所を読んで、祖母のことを思い出しました。私の母親は韓流ドラマが大好きで、私が帰省中もずっと見ているのですが、字幕をずっと読み上げているのです。初めは何をしているのかよくわからなかったのですが、途中から字があまり読めない祖母のために読み上げていることがわかりました。祖母は字幕でなく母親の音声を介して映像を見ているのです。それは字幕を読む私たちの映像経験と同一なのでしょうか。視覚障害者の方が音声ガイドを頼りに映画を<みる>とき、視覚で捉える映像経験とは異なっているはずです。この本は、感覚の多様性や相互の翻訳についても考えさせられる本でした。