ノンフィクションマラソン38冊目は『牙』です。
人間の欲望は動物の生命や尊厳をどこまで弄べるのか(p.196)
この本は、東アフリカ・南アフリカでの象牙密猟を扱った本です。本の主題は、当然、象牙密猟に対する批判ですが、それだけではなく、もう少し広い視野からこの問題を扱っている本だと思います。
私は、この本の良さは、「光」と「影」のコントラストにあるのではないかと考えています。「影」とは、腐敗するアフリカ各国政府、おそらくは象牙密売に深く関与しているだろう中国、そして国内の利害に振り回され国際的な象牙売買の禁止という潮流に乗り遅れる日本、それぞれの関係者の欲望です。これらの欲望が重なり合い、多数の象が顔をえぐり取られ象牙が密売に出されるという悲惨な結果を生み出しています。
しかし、この本では、アフリカの自然の雄大さや、子供を大切にする象の生態なども同時に触れられています。筆者がアフリカの自然に惹かれていることがわかります。これらの記述がいわば「光」源となり、「影」、人間の欲望のどうしようもなさがよりクリアに浮かびあがっているように思うのです。