ノンフィクションマラソン50冊目は、『灰色のユーモア』です。
「和田先生、あんたは警察の取り調べにさいして、さっぱりたたかっておらんではないですか。和田先生がマルクス主義者、共産主義者でないことは、誰よりも一番私が知っています。それなのにマルクス主義者にされてしまって、起訴されようとしている。そんなばかなことはないですよ。」(p.98)
著者の和田洋一は、戦前、京都で『世界文化』という世界の反ファシズム運動を紹介した雑誌を刊行しました。その雑誌の刊行により、治安維持法違反で逮捕されます。「灰色のユーモア」は、逮捕から起訴までの顛末を書いた作品です。
この作品の面白さは、警察の側でも和田氏をマルクス主義者と心から信じているわけではなく、かつ、和田氏自身も自らをマルクス主義者と思っていないにもかかわらず、転がるように事態が進んでいくことです。上の引用は、彼を取り調べた太秦署の刑事の発言なのですが、和田氏が自身をマルクス主義者でないといって反発しても、結局、事態は変わらなかったと思います。
この作品を読む中で、昨今よく言われる「忖度」という言葉も頭をよぎりました。転向論は日本戦後思想史における一大テーマで軽々に言えるものではないのですが、転向とは<思考における忖度>なのかなとも感じました。
今回は短いですがこれまで。