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ニック・ランドと新反動主義

ノンフィクションマラソン45冊目は『ニック・ランドと新反動主義』です。

カルチュアルスタディーズのように対象から距離を取って社会批評を加えるのではなく、周縁文化の只中に直接立ち会うことで強度的な潜勢力を掴み取ってくること。(p.139) 

随分前から現代思想の流れには付いていけなくなっていて、内容を理解できるか一抹の不安がありましたが、英米圏の現代思想の中の「新反動主義」的な流れについてわかりやすく解説がなされていてとても勉強になりました。このように最新の動向をコンパクトにリポートするのもノンフィクションの1つの手法だと思います。

ほぼ新刊ですし、内容は直接本を読んで確認してもらえればと思います。私はこの本を読んで、昔、とある社会学の教科書に記載されていた記述に驚いた経験を思い出しました。記憶ベースなのですが、そこには、福祉政策は共産主義の実現を阻むものであり、福祉政策は資本主義的で、本質的に欺瞞であるということが書かれてありました。当時、左派政党は福祉政策に力を入れていると思っていたので少し意外な感があったのです。その記述を読んで、現在の人々が抱えている個別の課題ではなく、思想が優先されるとこんなことになってしまうのだなというのを感じた記憶があります。

『ニック・ランドと新反動主義』で取り上げられる思想は、反人間主義的な思考です。人間主義が思想的な限界があるのはそうなのかもしれません。が、資本主義の流れを加速させそれを内破させると言われても、そのようなことがどのような犠牲を産むかを考えると微妙な感じがします。

あと、この本で勉強になったのは、引用にもあるように、ニック・ランドらの思想がクラブミュージックという音楽の創作の磁場で受け入れられていたという点です。これだけ読むと、かなりトランプとは遠い感じがするのですがね。(※ニック・ランドはそのレイシズム・セクシズム的側面が批判されているらしいのですが、そこらは不勉強ですのでこの記事では記載しませんでした。)