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残業学

ノンフィクションマラソン57冊目は、『残業学』です。

残業という現象は、物理現象ではありません。組織の現象であり、人の現象です。長時間労働をよりミクロな視点で見ていくと、そこには働き手それぞれの想いがあります。(…)日々、残業に向かい合うそれぞれの想いがありながら、その「全体」が、想いの単純な「総和」を「超え」、うねりのような姿で現れてくるのが、この問題の根深さであり、研究対象としての奥深さでもあります。(pp.327-328)

すごく面白い本でした。

今、日本では、将来の少子高齢化に伴う人口減に備え、労働力を確保するため、多様な働き方が求められています。残業が常態化している職場では女性や高齢者などが働きづらく、将来、様々な問題が起きるだろうことが容易に推測されます。残業が一つの習慣として日本社会に定着している以上、個々の企業の努力だけでなく、日本社会の習慣自体を変えていく必要性があるでしょう。

この本では、残業について、日本における歴史的経緯から、残業が生まれるプロセス、残業を減らすための方策に至るまで、講義形式でわかりやすく紹介しています。特に印象に残ったのは、下の画像に記載されているような、組織が残業を「学習」するプロセスです。

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『残業学』p.200から

この図の詳しい意味については是非本書を読んでいただければと思いますが、図を一目見るだけでも残業が組織的かつ集合的な事象であることがわかると思います。この学習自体を棄却(アンラーン)することが必要であると著者は考えるのです。

では、組織の集合的学習をアンラーンするためにはどうすればよいでしょうか。残業は集合的な事象であるため、残業削減のための規則や制度を作る必要があるとの主張が続くのかと思いきや、逆に、著者はそれぞれの職位に応じた個々の努力が必要であると主張しているように思えました。つまり、この本には、問題は集合的な次元で理解する必要があるが、解決は個人的に行う必要があるという思想があるのではないかと思うのです。例えば、残業を削減するためのマネージャーの責務は、「ジャッジ」「グリップ」「チーム・アップ」であると言われています。

今、日本は新型コロナウィルスの対応に苦慮しています。残業と同じように日本社会の悪しき習慣が悪影響を与えている面もあるでしょう。問題がどのように集合的に作られているのか、そしてそれを解決するための個別の課題は何か。『残業学』での問題の捉え方・解決法を応用しながら考えてみても面白いなと考えています。