ノンフィクションマラソン58冊目は、リシャルト・カプシチンスキ『黒檀』です。
ヨーロッパ人は、アフリカにいても、そのごく一部しか見ていない。たいていは、上っ面だけ、それも面白い部分でなく、およそ重要でもなんでもない部分を見ていることが多い。彼らの視線は表面を撫でるのみで、その奥を見通すことはない。万物が秘密を内包していることを信じず、自分が見ているものごとの裏に隠された意味があるなどとは思わない。(p.376)
リシャルト・カプシチンスキは、ポーランドのルポルタージュ作家です。この『黒檀』は、1958年から40年にわたる彼のアフリカ取材をテーマとしたルポルタージュ集です。1998年に『選挙新聞』に連載された記事29本から成り、アフリカ各国での彼の体験談が時代順に並べられています。
この本の良さは、筆者が訪れた土地の人とできるだけ同じ視線の高さを共有しようとし、その土地の風土、習慣、価値観などを理解しようとしている点にあります。「アミン(ウガンダ編)」という章では悪名高きウガンダの独裁者について、「ルワンダ講義(ルワンダ編)」ではフツ族によるツチ族の虐殺を、「冷たき地獄(リベリア編)」ではリベリアの内戦が描かれています。これらの章は比較的ジャーナリスティックなテーマを扱っています。しかし、ジャーナリスティックな記述(これも簡潔でわかりやすい。)の中に、田舎から都市に流入する流民の問題や、氏族の問題点も触れられています。これらの問題は他章でも繰り返し触れられており、他章の記述とリンクしながら立体的にアフリカの抱える問題が浮かび上がってきます。(なお、文化にかかわる記述として面白かったのは、魔術師や妖術師の記述や、ヨーロッパと異なるアフリカの時間概念でした。)
この本について、ネット上にも素晴らしい評があるので読んでみてください(下に貼っておきます。)。陰鬱なテーマが多い本ですが、端々から、そして特に本の最後の文章から、筆者のアフリカに対する深い愛を感じとることができます。
・「他人の立場にたつということ」(Honz)
・「ルポルタージュの最高傑作『黒檀』」