ノンフィクションマラソン6冊目『移民還流』です。センセーショナルではない、手堅く味わいのあるノンフィクションです。
- 作者: 杉山春
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/11
- メディア: 単行本
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なるほどなと思いながら、この本を読み終えました。著者は児童問題のノンフィクションライターとして知られている方です。なぜ彼女が移民問題を取り扱うことになったのか、読み始めは疑問だったのですが、最終章まで読み進めると彼女がなぜこの問題に興味を持ったかがわかります。
この本のなかに出てくる日系ブラジル人は、日本の豊かさにあこがれ、また一時のカネ稼ぎのため、日本にやってきます。迎える日本社会は、彼らを派遣労働の形態で単純労働力として使用します。仕事が不安定、子供が学校でイジメに合うなど、様々な問題が日系ブラジル人に降りかかります。日本社会に合わないからブラジルに帰っても、日本で単純労働だけをやっていたためブラジルで良い仕事になかなかつけず、また日本に戻ってきてしまう。
著者は日系ブラジル社会を以下のように特徴づけます。
「大胆に言ってしまえば、在日の日系人コミュニティーでは日本の未来を先取りした実験が行われている。国と国の枠組みの狭間に置かれ、グローバル経済の労働市場に剥き出しに放置され、そのまま二十年近くが過ぎた。」(p.194)
「カネを稼ぐことが目的で人が集まり、お互いがつながることができず、不信の塊になり、おびえ、家族が崩壊し、子どもが健康に育たない。これはいったい何なのか。」(p.233)
著者はこのような 「デカセギ」に着ている日系ブラジル人コミュニティーが、「巨大な社会的ネグレクト」(p.234)の状態にあると考えます。日本社会のなかで孤立しているコミュニティー、そのなかで個人も孤立しているのです。
この本のなかではこのような日系ブラジル人コミュニティーに関わる日本社会の現場(少年院、学校、ボランティア)の姿も描き出されていて、ほんの少しではありますが、希望を抱かせるものになっています。