Random-Access Memory

(思考のための一時的記憶措置)

批評を書き溜めてアルバムを作ることを目指しています。(まず10本)

  1. 「【映画評】<映画>と<映像>のリミットを往還する―ジャハール・パナヒ『これは映画ではない』『人生タクシー』論」(前編)(後編
  2. 「【ロング書評】ジャック・デリダ『アーカイヴの病』を読む」(前篇)(後篇
  3. 「【映画評】沈黙、発話、発達~映画『デトロイト』を活動理論で読み解く」(前篇)(中篇)(後篇
  4. 「【ロング書評】現在進行形の道徳的戦場へヤングアダルトを連れていく~梨木香歩『僕は、そして僕たちはどう生きるか』論」(前篇)(後篇
  5. 「【ショート書評】アドルノ「文化批判と社会」を読み直した」(本文
  6. 「【旅行記分かりやすい映画が好きかも ~山形国際ドキュメンタリー映画祭2019旅行記」(本文

2020年までにノンフィクション100冊マラソンを達成したいなと考えています。

以下は、マラソン本のインデックスです。1件当たり、600字から800字くらいまででコンパクトに感想を書きたいと思います。今年中に終わるかな?

50冊名:和田洋一灰色のユーモア』(2020.1.17)
51冊名:倉科岳志『クローチェ 1866-1952』(2020.2.1)
52冊名:森田朗会議の政治学』(2020.2.9)
53冊名:高木仁三郎市民の科学』(2020.3.7)
54冊名:木庭顕『誰のために法は生まれた』(2020.3.15)
55冊名:石原俊『硫黄島』(2020.3.28)
56冊名:好村冨士彦『ブロッホの生涯』(2020.4.18)
57冊名:中原淳+パーソル総合研究所『残業学』(2020.4.25)
58冊名:リシャルト・カプシチンスキ『黒檀』(2020.5.16)
59冊名:本田由紀教育の職業的意義』(2020.5.24)f:id:tsubosh:20171019223015p:plain
tsubosh.hatenablog.com
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教育の職業的意義

ノンフィクションマラソン59冊目は『教育の職業的意義』です。

 戦後の経済復興や社会の民主化・平等化が高校進学率を急速に押し上げたという「教育現実」が、労働力需要と企業内定着化の必要性の増大という現実と相まって、「日本的雇用」という「労働力実態」を生み出し、さらに続いて「労働力実態」が一元的能力主義の支配および職業的意義の喪失という「教育現実」を確立し、経済環境がそれをいっそう促進するといったように、教育と労働との循環的な相互規定関係が、政策的意図をも裏切る形で、60年代以降の日本社会を形作っていったのである。(p.87)

「自分は果たしてきちんと社会で働けるのだろうか」。学生から社会人になる前に、誰しもそんな不安を抱くのではないでしょうか。教育の世界から労働の世界へ参入する際、少なからぬ人が両者の間に大きな溝があるのを感じます。違う世界に移行するので、その間に何かしらの溝はあるかもしれません。しかし、なぜその溝がここまで大きくなってしまうのか。この本は、その原因追求と、対処法を考えようとします。対処法の1つが、タイトルにもあるように、教育に職業的意義を持たせるということになります。その主張も説得的で面白かったのですが、先に述べた「溝」がなぜ拡大してしまったのかという原因を分析した第2章「見失われてきた「教育の職業的意義」」の箇所が興味深かったです。

実は、上に掲げた引用が第2章の主張の要約ともなっています。端的には、1960年代高度成長時代の成功体験が、現在の足かせとなっているという主張になります。1960年代より前は、高校を卒業したらホワイトカラーとなることが多かったとのことです。しかし、高校進学率の上昇により、高校を出てもホワイトカラーになれない人が多数出て、企業内で不満が高まります。そこで、企業内でブルーカラーからホワイトカラーへの昇進の道が設けられます。これは、両者の職業的な質的差異が企業内で低下することを意味します。また、おりしも、労働力不足の時代、企業は労働者を確保しようとします。労働者はあくまで企業の「メンバー」として考えられ、ある「職」を専門的に行う者としては捉えられなくなります。このような労働環境があるため、採用の際、企業のメンバーとして働くための一般的な知識・教養だけが見られることになります。そして、現在の教育は、このように「教育現実」と「労働力実態」の相互規定の結果生まれていると、著者は考えます。

このモデルは問題を抱えながらも存続してきたわけですが、2000年代を迎え、目に見える形で綻びが見られるようになります。不景気となり、正社員を前提とした「メンバーシップ型」雇用形態で雇われる労働者の数が減るという労働環境の変化が生じたのです。それにもかかわらず、高校や大学では、「メンバーシップ型」の企業に適合的であった、職業的意義のない、一般的な知識・教養の教育しか行われておらず、それは若者のためにならず問題である、と筆者は批判するのです。(なお、この本では「キャリア教育」批判も同時になされています。)

教育領域はそれ自体で自立性を持つ領域ですが、当然、別の領域とも接続しています。このような領域間の相互関係に着目する視点がこの本の大きな魅力だと思います。また、以前紹介した『残業学』も、成功体験が足かせになっているという指摘をしていました。今、日本は難しい変革期なのだと思います。

航路を守る(5月)

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皆様、いかがお過ごしですか。

各種報道によると非常事態宣言の解除が近づいているようで、内心ホッとしています。手帳を見ると3月23日頃から真っ白になっていて、この時期から空白な時間が始まっています。例年、この時期は年度の切り替わりの時期で忙しいのですが、今年は少し違う感じでした。Zoom飲み会や新しいこともポツポツしていたのですが、時間が止まったような気がし、停滞しているという閉塞感がありました。これから、衛生面に気を付けつつ、生活を再起動していこうと思います。

 「自粛」という言葉は道徳的な響きを持つ言葉です。ネットの辞書では「自らすすんで行動や態度を慎むこと」と出てきます。今回の新型コロナ対応で、変に道徳的なトーンを持たせるのはよくないのではないと思います。そこで、私は、今回の自粛は、対人接触回数を可能な限り減少させるという意味であると理解し行動しています。この自粛生活中、自らの行動や態度を改めることなく、結構、自堕落な食生活をしてしまいました。画像のアイスは連休中によく食べたのですがおいしいですよ。

さて、こちらのクラウドファウンディングも応援することにしました。文化セクターが苦境を脱することを心から望んでいます。

motion-gallery.net

 あと、コロナ禍の中での書店について面白い動画がありました。これも勉強になりました。

www.youtube.com

 連休中に読んだ教科書は、『図書館情報学を学ぶ人のために』です。友人がこの本の編集者だったため手に取りました。

図書館情報学を学ぶ人のために

図書館情報学を学ぶ人のために

  • 発売日: 2017/04/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 この本の冒頭に次のような言葉が出てきます。

 「図書館情報学は司書の仕事を体系化することから始まった学問であるが、社会の変化に応じて、より広い「知識共有現象」を対象とする学問に発展してきた。知識が人びとのあいだで、社会のなかで、歴史をとおして、伝達され、共有されていく様を現象として捉えようという視座は図書館情報学特有のものである。」(p.i)

 「知識共有」という概念をキーとして、図書館の歴史からリンクト・オープン・データのようなネット上の最近の概念までわかりやすく論じられています。大変勉強になりました。「知識」を「共有」する現象は多面的です。どのような知識を、誰と、どのような手段で共有するのか、様々な在り方が考えられるからです。

連休中観た映画で面白かったのは、圧倒的に「フォードvsフェラーリ」です。画面作りもすごいですが、組織の中で求道者はどう生きるのか、現代において道を極めることとは、様々な要素が詰め込まれています。

youtu.be

では、6月には、緊急事態宣言が解除されていることを期待して、また。