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(月3回以上更新目標)

彰義隊遺聞

ノンフィクションマラソン68冊目は、『彰義隊遺聞』です。

 私たちの世代はすでに明治新政府のしたことは正しい、という史観によって教育され、開国は全、鎖国は悪という思想が前提として、刷り込まれている。しかし情報も少ないし、黒白がつけかねる、という幕末人の迷いのところまで立ち戻られなければ、いま難民や移民の受け入れについても現実感のある論議はできにくいだろう。(p348)

1968年4月、西郷隆盛勝海舟との交渉により、江戸城無血開城が行われます。官軍と旧幕府軍との全面的な戦争はこれにより避けられたのですが、旧幕府側の一部(特に慶喜の待遇に不満を持つ者)が抗戦を唱えます。彼らは彰義隊を結成し、上野寛永寺に立てこもります。5月15日、官軍が上野を攻撃し、1日で彰義隊は敗北します。これが世にいう上野戦争です。この彰義隊新選組とは異なり、あまり知られていないのではないかと思います。

彰義隊遺聞』は、彰義隊の子孫や関係者の聞き書き、各種の記録を基に、彰義隊の実像を探ろうとした本です。この本では、数々の魅力ある人物が紹介されますが、突出した偉人や悪人は出てきません。逆に歴史の大きなうねりの中で生きている普通の人々やその思いに焦点が当てられているように感じました。彰義隊だけでなく、その時代の江戸の庶民の記録も多数紹介されていることからも、それが分かります。

著者は「人にはそのようにしか生きられない秋(とき)があるのだろうか」(p.354)という言葉を書いています。上に引いた引用も含め、限界ある普通の人の人生を読むことの面白さ、それはノンフィクションの面白さの中心にあるものであるのですが、それを堪能した1冊でした。

でも、江戸時代の思想や明治維新は興味深い点が多々ありますね。他の本も読んでみたいものです。