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(月3回以上更新目標)

ルポ川崎

久しぶりのノンフィクションマラソン、66冊目は『ルポ川崎』です。

本書を読んで実感させられるのは、たとえ同じ時期、同じ場所に暮らしていても、一人ひとりの経験や感覚は大きく異なり得るという当たり前の現実だ。その際には、一人ひとりが立たされてきた位置とそこからしか見えない情景が深く刻み込まれている。(望月優大氏の解説,p.326)

この本では、川崎を拠点に活動するBAD HOPというヒップホップグループを中心に置きつつ、主に川崎市の南部(川崎区などのサウスサイド)に住む若者たちの苦闘に満ちた人生が紹介されています。

先輩・後輩関係を利用してヤクザが上納金を集めたり、別の地域の若者と喧嘩に明け暮れたりする、いわゆるヤンキー文化の負の側面がこれでもかと書かれています。ただ、それ以上に、ヒップホップやスケートボードなどがきっかけとなって人生が変わった若者の軌跡や、多国籍な川崎の町を守ろうとする人々の努力も書かれています。

私的な話となりますが、引用で示した望月優大氏が解説で書かれていたことを、私もこの本で強く感じました。

1990年代後半、不良たちが川崎南北戦争と呼ぶ争いの真っ只中、TY-KOHとSPACEKIDが通っていた井田中学校は、南部・中原区と北部・高津区の区境の前者側にあったことから、"南部の門番"として、1キロほどしか離れていない後者側の東橘中学校と抗争を繰り返していた。(p.205)

私が少しだけ川崎市に住んでいたことはこのブログでも少し触れましたが、この井田中学校、私が住んでいたところから5分もしないところにありました。当時住んでいた際は、閑静な住宅街だと思っていました(この感覚は決して間違いではないと思います。)。今は分からないのですが、20年前の不良の中学生には、私には見えない川崎の南北の境界線が見えていたはずです。少しだけ自分の街を見る視線が相対化された感覚がありました。