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遠野物語・山の人生

遠野物語・山の人生 (岩波文庫)

遠野物語・山の人生 (岩波文庫)

 

 「同胞国民の多数者の数千年間の行為と感想と経験とが、かつて観察し記録しまた攻究せられなかったのは不当だということ」(p.88)
「我々が空想で描いて見る世界よりも、隠れた現実の方が遥かに物深い」(p.95)

民俗学の祖、柳田国男の代表作「遠野物語」「山の人生」を読みました。柳田国男の著作は断片的にちょこちょこ読んでいたのですが、単著を通しで読んだのは恥ずかしながら初めてです。

柳田は歴史の流れの底流にある不変で静態的な層を研究しているという勝手なイメージがあったのですが、この本を読んで印象が変わりました。柳田が例に挙げるのは、民俗的な風習よりも、神隠しとか狐や狸に騙されるとかいったような、超常現象が遥かに多いのです。確かに、「遠野物語」で有名となった座敷わらしも超常現象ですね。

この超常現象が、単なる心理現象だけでなく、また、中国から伝来した仏教等の影響だけでなく、「山人」の仕業であった場合もあったのだと柳田は考えます。「山人」は、山男とか山姥とも言われ、里にいる人々とは違う生活習慣を持つ人々のことです。そして、彼・彼女ら「山人」は日本の先住民族だったのだ、と彼は大胆な仮説を唱えるのです。最終的に「山人」は、里の人々と同化し、その習慣は絶えることになったとも彼は考えます。

現在の学問的水準からいって先住民族論は否定されているかもしれません。ただ、この本は様々な領域に展開していける種がたくさん埋まっている本だと思います。私は、精神分析の著作との類似性を感じました。思いつきではありますが、フロイトの「モーセ一神教」と比較をしてみても面白いと思います。

モーセと一神教 (ちくま学芸文庫)

モーセと一神教 (ちくま学芸文庫)