- 作者:渡辺 京二
- 発売日: 2005/09/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
もっと日常生活に即して言いましょう。「最近の日本人は、なんでこんな醜いのだろうか、昔はもっと美しいひとびとがいたのでは」という疑問を持ち、この本を手にとったわけです。
ただしこの本の主題は「日本人」論ではありません。ましてや「美しい日本」などとは対極にあります。
この本の論理展開の軸は、(多分に方法的にですが)思いきって、明治以前の、前近代を全肯定する立場にあります。(少し前に言われた「美しい日本」は、一面で明治以降の近代主義の延長線上にあるため、この本とは反対の志向にあるかと思います。)人に対する優しさ、自然に対する振舞、私も含め、多くの人が見失ってしまったとされる美点、これらを近代化以前の「江戸後期文明」は、1つの価値体系(文明)として多分に持ち合わせていたのではないか、というのが筆者の展開する論理です。
具体的には、日本に来た外国人の旅行記をもとに風景、信仰、性の扱い方など、日常生活の様々な相について、総合的に「江戸後期文明」が紹介されます。これを時間をかけて読むのは愉悦の体験でした。
筆者の論理を踏襲すれば、「近代化こそが人を醜くしている」ということになります。昔に帰れない今、どうするべきなのでしょうか。